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「取調室にカツ丼を」その1

 この文章は、何年も前に某掲示板の「取調室のカツ丼は自腹って本当? 情報求む!」という質問への答えに、大幅な書き足しをした文章です。だから、内容はいくらか古くなっている部分もあります。タイトルは、「アルジャーノンに花束を」をもじってみましたが、失敗してますね。

 まず、何のために自白調書を取るのかというと、裁判のためなんです。

 法廷で被告が「刑事さんにカツ丼をおごってもらったのが嬉しくて、この人に手柄を立てさせてあげようと思って、つい犯行を認めてしまいました。本当はやってないんです」(A)なんて言い出したら、検察側は不利になるんです。
 当然、被告側の弁護士か裁判長が、被告の取り調べを行った刑事を証人として呼び出して証人尋問をするわけです。「あなたが被告にカツ丼をおごったというのは本当ですか?」と。
 ここで、「えっ? 裁判で刑事が証人として証言することなんてあるの? 刑事ドラマで、そんな場面見たことない」なんて人がいるかもしれませんが、実は刑事が裁判で証人として証言するのは、刑事の通常の業務の一つと言って良いくらい頻繁にあることなんです。それをテレビの刑事ドラマでやらない二番目の理由は「裁判で、刑事は脇役になってしまうから」です。一番目の理由は後述します。

 さて、「おごったというのは本当か?」という質問に、本当はおごってるのに「おごってない」なんてウソを答えて、後でそれがばれたら、その刑事は偽証罪とか法廷侮辱罪に問われることになるわけです。

 では、「おごった」と正直に答えたとします。当然、検事が「なんで、そんな取り調べの仕方をしやがった!!」と睨みつける中、質問は続くわけです。「おごった理由はなんですか? 誰でも良いから「自分がやった」と言わせて、自分の手柄にしようと思ったんですか?」と。

 ここで刑事が「ハイ!」と答えたら、法廷の人間は全員ずっこけるでしょうね。そして、物的証拠がゼロなら、そんな自白調書で有罪判決なんて出す裁判官はいないはずです。被告の無罪は確定。後で、この頭がおかしい刑事を被告とした別の裁判が始まるはずです。

 では「いいえ」と答えたとします。当然、「では、どんな理由でおごったんです?」と質問は続くわけです。それで、その理由をどう答えたかで、このパターンはいろいろ変わっていくので、別のパターンを考えてみることにします。

 連日「お前がやったんだろう!?」なんて取り調べを受けて、ヘトヘトになっている人に、「俺のおごりだ、食え……」なんてカツ丼をおごって、「どうだ、全ての罪を認めて楽にならんか?」とやったりしたら、中にはやってないのに「やった」なんて言い出しちゃう人がいるかもしれませんよね。その人が裁判のとき、(A)のセリフを言わなかったら、その人、無実の罪で刑務所行きになってしまうんです。

 こんなこと、絶対あってはいけないですよね? つまり、

 「俺のおごりだ、食え……」
 「ううっ、刑事さん! おれがやりました!」
 「わかった、わかった、全てを吐いて早く楽になれ」
 「ハイ!」

 なんてのはテレビが作った嘘。本物の刑事は「そんなことはしないし、やってたって「やってない!」と言い張るはず」。これが正解なんです。

 本物の刑事に「なんで、取り調べのとき、カツ丼をおごるんですか?」と質問したら、多分、こんな答えが返ってくるはずです。

 「何のことですか? 私たちはそんなことはしません」
 「えっ? だって、テレビの刑事ドラマじゃ、やってるじゃないですか」
 「それはテレビの話でしょう? 我々、本物の刑事の仕事と一緒にしないでください」
 「えっ? それじゃなんでテレビじゃ、やってるんです?」
 「知りませんよ、テレビの人に聞いてください。我々は忙しいし馬鹿らしいから、テレビの刑事ドラマなんか見てないんです」

 最後のセリフは本当に言いました。昭和55年か56年頃、久米宏のラジオ番組で「テレビの刑事ドラマ、どこまでウソかホントか」という企画があったのです。そこで、本物の刑事に電話をかけて、「テレビの刑事ドラマを見てますか?」と質問をしたのです。「いいえ、見てません。忙しいし馬鹿らしいから」「あ、やっぱり1時間で事件が解決しちゃうのとか(笑)?」「いや、そんなじゃなく、全部ですよ」と、その人は答えました。

 それで、テレビの刑事番組を作る人に「本物の刑事はカツ丼をおごらないのに、テレビの刑事ドラマでカツ丼をおごるのはどうしてだ?」と聞けば、多分、こんな答えが返ってくるはずです。

 「えっ? ダメなんですか?」
 「ダメって、知らないんですか?」
 「知りませんよ、知ってたらやりません」
 「知らないって、そんなんで良いんですか?」 
 「ふん! 我々は視聴率が取れれば、それで良いんです。大体、あなたたちだってピストル、バンバン撃ちまくる刑事見て「へっ! こんな刑事いるかい!」なんて思いながら、喜んで見ているわけでしょう? ピストル出す刑事は「いない」って思うくせに、カツ丼出す刑事は「いる」って、なんで思うんです?」

 ここまでざっくばらんに言う人も、あまりいないと思いますが、本音はこんな感じでしょう。つまり、「本物の刑事はカツ丼をおごらないのに、テレビの刑事ドラマでカツ丼をおごる」理由は、

 「本物の刑事の仕事なんか、実際はよく知らないから」です。

 そう、「刑事ドラマの中に、裁判で刑事が証人として証言するシーンがない」一番目の理由は、「本物の刑事の仕事なんか、実際はよく知らないから」なんです。

 それで良いのか、と聞かれれば、私はダメだと思いますよ。だから、私は四捨五入すると間違いなく刑事ドラマを20年ぐらい見てません。「はぐれ刑事純情派」なんて一回も見たことがありません。

 なんで、刑事ドラマを見なくなったかというと昔、深夜で「女刑事キャグニー&レイシー」という海外ドラマがあったのです。日本の刑事ドラマと違って、番組開始時に事件が起こって、事件解決とともに番組終了という内容ではなく、番組開始時、二人はすでに数件の事件を抱えていて、その中の一つか二つが解決したりしなかったりして終了という内容に「これが現実だよなあ……」と思うようになり、日本の刑事ドラマが馬鹿らしくなって見なくなったのです。(日本の刑事ドラマのように「番組開始時に事件が起こって、事件解決とともに番組終了という内容」の場合もあります)

 もちろん、きっちり調べて仕事している人間はいますよ。たとえば「特捜最前線」の脚本を書いていた長坂秀佳さんなんか、「刑事ドラマの中に、裁判で刑事が証人として証言するシーンがない」理由は、「裁判で、刑事は脇役になってしまうから」と知ってて、わざとやらないわけです。

 しかし、「西部警察」や「あぶない刑事」の脚本を書いてた柏原寛司のように、「本物の刑事の仕事なんか、実際はよく知らない」まま、いい加減な仕事をしている人間もいるわけです。「西部警察」や「あぶない刑事」のようにボコボコ殴って調書取ったってダメなんです。「殴ったら吐いた」なんて書いてある調書を受け取る検察官なんかいません。書いてなくたって、顔に青アザ作った人間が法廷に出てきて、「刑事に殴られて、仕方なく犯行を認めました」なんて言われたら、お終いです。憲兵の時代じゃないんだから……。

 「西部警察」や「あぶない刑事」は「ダーティ・ハリー」の真似なんです。

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 しかし、「ダーティ・ハリー」の場合は、こうなってるんです。少女を誘拐した凶悪犯「さそり」が、少女の歯を送りつけてきます。ハリーは「もう殺されてるんじゃないですか?」と予想するのですが、上司に「生きてる可能性もある」と言われ、取引に行かされます。「さそり」に暴行を受けるハリーですが、反撃に転じて「さそり」を暴行し、少女の居場所を聞き出します。そこに少女の「遺体」はあったのですが、「拷問で取られた証言は証拠にならない」と「さそり」は釈放されてしまうんです。

 つまり、「殴って調書取ったってダメ」を、ちゃんとやってるんです。

 しかし、それを真似してる「西部警察」や「あぶない刑事」は、「ああ、殴って取り調べしても良いんだ……」と適当に真似してるんです。

 それで……、

 (この文章、まだ続きます……)

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投稿: sirube | 2009年5月31日 (日) 17時09分

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