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「取調室にカツ丼を」その4

 まとめますと、こういうことですね。

 毎回、「お前がやったんだろう!!」なんて取り調べシーンを書いていたら、刑事が悪役になってしまうので、本物の刑事の仕事をよく知らない脚本家が「そうだ、何か食べ物をおごって、情にほだされて自白する、というのはどうだろう……?」なんて脚本を書いたのでしょう。そして、撮影現場の人達も本物の刑事の仕事なんか知らないから、「脚本にこう書いてあるんだから良いんだろう……」と撮影し、テレビで放送されたのです。

 本物の刑事も、忙しいし馬鹿らしいからテレビの刑事ドラマなんか見ないし、見たとしても「ああ、間違ってるな……」と思うだけで、テレビ局にわざわざ電話かけたりしないわけです。(そういう人は本当に暇な人ですから……)

 話自体は10何年も前のことでしょうが、永六輔の本に、こういうことが書かれてました。

 「今の医者は脈なんか見ません。心電図を見ます。その方が正確ですから。この間なんか、心電図が動いてるのに脈とって「ご臨終です」なんて言ってました。ドラマ作ってる人に言っておいてください。暇な医者が見てるぞって」

 わざわざ電話かける刑事や物知りな人がいたとしても、電話を受ける人と、ドラマ作ってる人は別な人間ですので、「ハイ、そうですか。申し訳ありません。ありがとうございます」で終わってしまうわけです。

 それで、テレビに流れた番組を見た人も、本物の刑事の仕事なんかよく知らないし、おちゃらけたシーンではない真面目なシーンだしで、嘘をやってると思わなくて、「ああ、刑事は取り調べのとき、ああやって自白させるんだなあ……」なんて思ってしまったわけです。

 そして、そういうドラマを見た他の脚本家も「あの人がやってるから良いんだろう……」と同じようなシーンを書いたりして、連発したから、「取り調べのとき、刑事はカツ丼をおごる」と定着してしまったわけです。

 しかし、今では真面目な刑事ドラマでは、どんな刑事ドラマでも「カツ丼をおごる刑事」などいないはずです。いつ頃から、いなくなったかというと、多分、昭和52年か53年ごろと思われます。「特捜最前線」の脚本を書いていた長坂秀佳さんが「プロデューサーが東大出身で、取材したいと言うと、いつも用意されてるのは、その道のエキスパートだった」と言っているのです。それで多分ですが、この時、「食べ物をおごる」というのは嘘、というのがわかって、脚本家の間に広まったのではないかと思うのです。

 それで、具体的に、「どの番組の何話で、誰がカツ丼をおごっていた」と正確に記憶してる人はいるのですかね?

 ほとんどの人は、そんな記憶を持ってないのでは(笑)?

 実は……、私は一つ知ってます。

 昭和49年の「スーパーロボット マッハバロン」に、そういう場面があるのです。

 捕まったロボットが刑事の取り調べを受けるんです。その時、刑事が「俺のおごりだ、食え」とカツ丼を差し出すのです。

 するとロボットは……、

 「俺、人間に生まれて刑事さんのカツ丼、食べたかったです」

 と泣き出すのです。

 「カツ丼をおごる刑事」というのは、こういうバリエーションを生み出すほど、一般化されていたのでしょうね。

 しかし、「カツ丼をおごる刑事」というのは「テレビが作った嘘」です。本物の刑事はそんなことはしません。やってたって「やってない」と言い張るはずです。

 それで、テレビの刑事ドラマの取り調べのとき、何で毎回、カツ丼をおごるのかというと、撮影の準備の都合というやつなんです。

 撮影の準備に手間取ると、そばやうどんだと、のびてしまうのです。
 (今、「ああ!!」と言ったでしょう。私もこれを聞いた時は「ああ!!」と声をあげました)

 テレビ創世記のスタッフは、この事実に気づき、試行錯誤を重ねて、「カツ丼が適当」と決まったんだそうです。(天丼だと、ライトの熱でコロモがみるみる変形してしまうんだそうです)

 だから、別の可能性もあります。脚本が先で、そばやうどんで試したら、のびてしまうのでカツ丼に決まったのではなく、ほかのシーンで、例えば、留置場での食事のシーンで本物の刑事の仕事なんか知らないから「多分、店屋物でも取るんだろ……」と現場の人間がカツ丼を出しているのを見て、脚本家が「あのカツ丼を利用して、何か話が作れないか?」と考えたかもしれません。

 つまるところ、「刑事がカツ丼をおごるのはテレビが作った嘘。本物の刑事は、そんなことしないし、やってたって「やってない」と言い張るはず」

 そして、「テレビの刑事ドラマでカツ丼が出てきてた理由は、撮影の準備に手間取るとそばやうどんだと、のびてしまうからです

 どこに分類して良いかわからない話なので、生活情報に分類しました。まあ、トリビアとして、人に話して自慢してください。

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