木枯し紋次郎は一度死んでいる!?
「木枯し紋次郎」は笹沢左保による連作時代小説です。
| 木枯し紋次郎 (1) (光文社文庫) 著者:笹沢 左保 |
市川崑監督監修、中村敦夫主演によりテレビ時代劇化され人気を博し、大ヒットしました。
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木枯し紋次郎 DVD-BOX I 販売元:ハピネット・ピクチャーズ |
その完成度はジェレミー・ブレッド主演の「シャーロック・ホームズ」シリーズに匹敵すると言っても過言ではないと思います。
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シャーロック・ホームズの冒険[完全版]DVD-BOX 2 販売元:ハピネット |
最近でも、江口洋介主演でドラマ化されましたね。というか、それで思い出した話なのですが。
私は「木枯し紋次郎は一度死んでいる」んじゃないかと思ってるんです。
私が「木枯し紋次郎」を読んだのは10年くらい前でしたかね。その中の「唄を数えた鳴神峠」で紋次郎は40対1という戦いをして相手側を全滅させるも全身傷だらけになり、路上に倒れて終わるんです。
その長脇差が紋次郎の左の肩口を割ったのと同時に、紋次郎の突きだした長脇差が茂吉の心臓のあたりにくいこんでいた。
この傷の描写を読むと、どうしても死んでなきゃおかしい、という重傷を負ってるはずなんです。
ところが、次の「木枯しは三度吹く」と言う話では、紋次郎は何事もなかったように再登場してるんですよ。「これはどういうことだ?」としばらく悩んでいたのですが、後になって理由がわかりました。
「唄を数えた鳴神峠」という話は、実は第一回の連載最終回で、次の「木枯らしは三度吹く」が書かれるまでに2年間の空白があったのです。
そして、私は直接読んだことはないのですが、その間に笹沢左保氏は「主人公に人気が出すぎると作者の思い通りにならなくなる」というエッセイを書いているんだそうです。
それで思ったんですが、笹沢左保氏は「唄を数えた鳴神峠」で、はっきりと書いてはいませんが「木枯らし紋次郎は死にました」と終わらせたつもりだったのではないでしょうか? 「これだけ書けば、はっきり書かなくてもニュアンスでわかるだろう」と思ってたんでしょう。しかし、「主人公に人気が出すぎると作者の思い通り」にならなくなります。読者の方は、そうは思わなかったのです。「あれ、死んでないんですよね。続きは、いつ書くんです?」と聞かれまくったんでしょう。それで嫌になって、「主人公に人気が出すぎると作者の思い通りにならなくなる」というエッセイを書き、「ハイハイ、あんたたちの想像通り、死んでませんよ」と続きを書き始めたのではないでしょうか? だって、他にそんな主人公がいませんから。(私が知らないだけかもしれません。そんな主人公を知っていたら、教えてください)
それで、私は「この次の「木枯しは三度吹く」と言う話では、紋次郎は何事もなかったように再登場してるんですよ」と書いていますが、それは私の間違い。上記のような事情を知ると、紋次郎は何事もなかったように再登場をしてません。笹沢左保氏はちゃんとフォローをしてます。自分では死なせたつもりの紋次郎を何事もなかったように再登場させるのは、照れくさかったらしく、「木枯しは三度吹く」は少し凝った話になっているのです。
村を追放された男がやくざの身内になるために、村に帰ってきます。しかし、男は村で何者かに殺されてしまいます。身内にするはずだった親分は「下手人を差し出せ、さもなくば力士崩れの大男、六人を村で暴れさせるぞ」と要求します。ですが、村人たちにも、下手人が誰かわからないのです。頭を抱える村人たちを、紋次郎にツテのある老人が「紋次郎さんに頼もう!」と励まします。しかし、現れたのは上州無宿、木枯し紋次郎ではなく、別の紋次郎だったのです。引き受けた紋次郎はあっさり殺され、下手人を差し出さないばかりか用心棒まで雇いやがったと怒り狂う親分の前に、本物の木枯し紋次郎が現れるのです。
「ここへ、何をしに来たんだ」
「この仏に用がありやして……」
紋次郎の懐から財布を取り出す。
「そいつに財布をすられたってわけかい」
「へい」
「この村の連中に手を貸す気はねえんだな」
「へい、あっしには関わりのねえことにござんす」
まあ、結局、関わりを持っちゃうんですけどね。さあ、巨木を振り回す力士崩れの大男六人と、どう戦うのか?
週刊少年マガジンに連載されてた「少年無宿シンクロウ」にパクられていました。
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少年無宿シンクロウ (5) (講談社コミックス―SHONEN MAGAZINE COMICS (3748巻)) 著者:さい ふうめい,星野 泰視 |
その後、笹沢左保氏は木枯し紋次郎と一生付き合う気になったらしく、「御百度に心で詫びた紋次郎」で終了した後、峠花の小文太と言う男に追われるシリーズを連載し、40代になった「帰って来た紋次郎」という連載を持ちます。連載を持ちます、というのは完結させずになくなられてしまったからです。
「人気が出すぎた主人公」持った作者、というものは同じ悩みを持つものです。コナン・ドイルもシャーロック・ホームズを生き返らせましたしね。
モンキー・パンチ氏も、とあるテレビ番組で「「ルパン三世」の最終回を書きたい」と言いました。
例外的に、人気が出すぎた主人公をうまく消した人と言えばアガサ・クリスティがいますね。エルキュール・ポアロを「自分の死後、ポアロが人の手によって活躍するのが耐えられない」と言って自分の死後、発表する契約をして「カーテン」を執筆します。実際にはアガサ・クリスティの死の数か月前に出版されましたが。
| カーテン (クリスティー文庫) 著者:アガサ・クリスティー |
それになぞらえて金田一耕助最後の事件を書いたのが横溝正史。「病院坂の首縊りの家」で金田一耕助を米国に旅立たせてます。
まあ、とにかく、「人気が出すぎた主人公」持った作者は困ると言った話です。原作者である笹沢左保氏が亡くなられてしまった今では確かめるすべのない話ですが、私はそうなんじゃないかと思っています。
その反省を踏まえてか、煽りを食らって笹沢左保氏にはっきり殺されてしまった主人公が「乙井村の姫四郎、人呼んで乙姫」です。この人は完璧に死んでます。なにしろ脳天にピストルの弾が命中してるんですから。地の文にも、はっきり死に顔と書いてあります。これで生きてると思う奴がいたら、本物の馬鹿だ。(実は、他にも殺されてる主人公がいるんですけどね(笑))
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